ロッテルダム映画祭日記5

今回参加させてもらっているロッテルダムラボのプロデューサーは、総勢70人程度だ。世界中あらゆる国々から参加しているのは以前も書いたが、レクチャーやワークショップだけでなく、朝食や昼食を共にしていると、段々彼らの経歴があきらかになってくる。若手プロデューサーという条件のはずだったが、意外と経験豊富なプロデューサーも何人かいるようだ。

イスラエルから参加しているエイタンは、カンヌで喝采を浴び、日本でも劇場公開されて話題になった『戦場でワルツを』の監督アリ・フォルマンの新作のプロデューサーで、今回はハリウッドスターをキャスティングしての作品になると語っていた。アメリカから参加しているアデルは、カンヌやサンダンスで上映された『The Myth of the American Sleepover』を、同じくアメリカ人のマットは、『ディパーテッド』などで女優として活躍中のヴェラ・ファーミガの初監督作『Higher Ground』をそれぞれプロデュースした経験があり、アイルランドから参加しているコナーは、大石圭原作で日本との共同企画をプロデュースしている。参加プロデューサーみんなが海外共同企画に興味があり、何か学ぼうとこのラボに参加している。

中でも仲良くなったのは、前回も紹介したフィンランドから参加しているマーク。カウリスマキ監督の新作『Le Havre』ではスタッフとして参加しているほか、本年度のフィンランドアカデミー賞にあたるJussi Awardでは、プロデュース作品『The Good Son』が『Le Havre』と並んで7部門にノミネートされている。彼の夢はヘルシンキでハンバーガーレストランを経営すること。そんな夢を実現させる第一歩として、凍り付いた真冬の湖の上でバーベキュー大会を開催したりしている。フェイスブックに応援ページも設立していて、今年中には本格的にオープンするらしい。翌日帰国予定だというので、一緒に夕食に出かけると、偶然入ったレストランは、地味だがアットホームな雰囲気のイタリア料理。美味しそうな匂いが漂う中、木製のテーブルと椅子が並んでいる。フィンランドと日本で共同企画を何か考えようと言うので、冗談半分に「ハンバーガーレストランを経営するフィンランド人の男達が、神戸牛を手に入れようとするが、変な外人と馬鹿にされて、日本人業者に騙されるストーリーは?」と投げてみると「バカバカしいと思えるぐらいの、いいアイディアだ」と真面目な応え。単なるフィンランド風の不思議なユーモアなのか、それともマジなのかはよくわからないが、夢のような話が広がっていくキャッチボールから生まれてくる映画は、きっと楽しい傑作になるだろう。そんなふうに感じれる素敵な夜だった。

フィンランドの凍り付いた海上でバーベキューを開催する不思議なフィンランド人プロデューサーのマーク



ロッテルダム映画祭日記4

本日のテーマはニューメディア。VODやネットを中心とした新しい映像配給の形や、欧米で話題のトランスメディアに焦点があてられたレクチャーが目白押しだ。

自身で監督した作品を、独自のサイトにアップロードして3億ものダウンロードヒットを記録、爆発的に誕生した映像ファイルシェアサイト<VODO>の創設者や、Itunesなどのオンラインサービスに映像を提供している<Under The Milky Way>の話を聞くと、まだ確固とした新しい配給方法への確信は感じられないものの、可能性は充分に感じさせるものがある。インターネットの世界は、業界人にとってもまだまだ未知数の世界のようだ。

その次はアメリカで話題のクラウドファンディングサイト<Kickstarter>の映画担当者のプレゼンだ。創立わずか2年で爆発的な成長を遂げたサイトで、いままで映画制作につぎ込まれた募金総数はなんと45億円。53万もの企画がアップされ、5000ほどの企画が目標額を達成している。日本でもクラウドファンディングが話題になっており、我が社ヴェスヴィアスも自主配給する完山京洪監督作品『seesaw』の配給宣伝費の一部をモーションギャラリーにて協力を募っている。クリエーターと観客を直接結びつけて、お互い交流をはかりながら、参加型のクリエイティブ興行を実現させるのが目的である。ここで注目されるのが、アメリカで人気を得たクラウドファンディングが、日本を含む海外で通用するかである。自発的に参加してコミュニケーションを啓発させるコンセプトが果たして日本でも浸透するのか? モーションギャラリーでは、イランを代表する世界的に有名なキアロスタミ監督が、日本で撮影中の企画の製作費一部をクラウドファンディングで集めて話題になった。

午後からは新しいメディアの形としてもてはやされているトランスメディアについての講義。簡単にまとめてしまうと、メディア企画をさまざまな形で展開させる宣伝戦略だ。日本流に例えると、スタジオ系の作品が、TV、ネット、本、イベント、展覧会など連動で宣伝されるのを指すと思われがちだが、欧米で話題になっているトランスメディアは、単なる戦略ではなく、あくまで企画内容に対する理解を深くすることが最終目的となっている。ヨーロッパのテレビ局が企画した旧ソ連の崩壊をテーマにした『Farewll Comrades』は、ドキュメンタリー映画だけでなく、ネットコミュニティーやイベントに参加すると、さらにテーマについて学べて理解を深めることができる仕組みになっている。

様々なレクチャーを聞いて、休憩やランチの間にラボ参加者のプロデューサーと意見を交換しながら交流を深めていく。夕方のカクテルのあとは、シンガポールから参加しているプロデューサーと、マレーシアから参加している女性監督2人で、中華料理店で夕食に出かける。アジア料理を食べてほっとする瞬間。いきなりハイピッチの銅鑼の音とともに春節を祝う中国獅子が登場。今日は旧正月だ。どうりで店内は中国人家族連れで満席。4人でいろいろ話しているうちに、共通の知り合いが何人もいることを発見。『世界は狭いね』と呟くシンガポールプロデューサーのひと言に相槌を打ちながら、夜は更けていく。<続く>

ロッテルダム映画祭日記3

ネットワーキングは朝食からはじまる。そもそも今回参加させてもらったロッテルダム・ラボは、映画祭の企画マーケットであるシネマートの連動イベント。企画を持ったプロデューサーが、配給、セールスエージェント、資金探しのために参加するのがシネマート。興味のある会社やプロデューサーにアポを入れて、朝から夕方まで3日間ぶっつづけでミーティングをこなす究極のネットワーキングだ。人気のある企画は1日15件ほど予約が入るという。そんな慌ただしい1日のスタートが、シネマート会場で催される朝食だ。ラボ参加のプロデューサー達も、シネマートと映画祭ゲストのみ招待される朝食、昼食、カクテル、パーティに参加して、ネットワーキングの場を拡げることができる。知名度とは反対に、比較的こじんまりとした映画祭なので、去年参加したベルリン映画祭よりもはるかに人に会いやすい。いざ勇んで会場に行くと、コーヒーをゲットするにも長い列ができている。企画の話しをしている人達に挟まれながら、つくづくプロデューサーとは大変な仕事だと感じる。ふと見ると、長い列に飽きれた様子の友人ルカが目に入る。一緒に順番を待つようにジェスチャーすると笑顔で近寄って来る。「なんだいこの列は?朝食でさえも競争かい?」冗談にならない冗談である。

ラボ参加プロデューサーは、1日中ワークショップやレクチャーに参加する。最初のレクチャーは、海外で<ピッチ>と呼ばれるプレゼン方法について。喋り方はもちろん、言葉使いから、動作や仕草まで、色々な注意事項を説明される。ただ基本はあくまで自分であること、そして企画に対する自分自身の情熱が相手に伝わるようにすることに重点が置かれる。指摘されれば納得だが、<just><only><small><maybe>などの言葉は、ピッチには禁句。何人かが参加者の前で練習させられる。緊張してほとんど何を言っているのが解らない人もいれば、あまりに積極的すぎてあつ苦しい人もいる。どちらかというと、女性の方が比較的冷静だ。キューバ、コスタリカ、ブラジル、メキシコなどラテン諸国から参加しているプロデューサーはなぜか女性が圧倒的に多い。

昼食を挟んでさらにレクチャーが続く。海外との共同企画を推進するためにEU諸国ではプロデューサー組合のようなグループが幾つかある。それぞれがロッテルダム・ラボのような育成プログラムを主催しており、お互いに協力しあいながら情報提供や資金サポートを行っている。行政が率先して文化貢献のために確固たるシステムを確立している。しかもヨーロッパだけに限らず、アジアやラテン圏まで幅広い範囲に渡ってサポートが実施されている。こういった文化貢献のスピリットが日本の行政にはことごとく欠けていることを感じさせられた。

夕方にはカクテルアワーがあり、さらに夜はパーティ。ネットワーキングは永遠と続いていくはずなのだが、パーティをさぼって、昨日出逢ったフィンランドのプロデューサー・マイクと一緒に、フィンランド映画界きっての異端児として知られるピーター・ヴォン・バックの作品を観に行くことにする。監督本人が来場しており、マイクに紹介してもらう。60歳ぐらいの知的な印象を与える紳士は、固い握手をしながら「作品を見に来てくれたんだね」と聞いてくる。「そうです」と応えると「来なくていいよ 最悪な作品だから」と笑顔でひと言。この自虐的ユーモアのセンスが映画にもそのまま投影されているものの、上映後のティーチインからは、彼がどれだけ映画を愛しているかがひしひしと伝わってくるのが、微妙に心地よかった。<続く>

ベルリン映画祭は熊、ロッテルダム映画祭は虎がイメージマスコット