ニューヨーク映画三昧3 ダイナー


 

少し古ぼけた感じのダイナーが好きなのである。

背筋をピンと伸ばして立っている店長らしき白髪まじりの男が早口でオーダーを読み上げると、鼻歌を歌いながらグリルに立っている体格のごついギリシャ人のおじさんが、ご機嫌な様子でプレートの準備をはじめる。馬面をそのまま横に伸ばしたような顔、少し屈んだ背筋、ごついが素早く動く両手、白衣からはちきれそうなお腹の脂肪がベルトの上にのっかっている。食事の準備が出来るとベルを鳴らす代わりに、意味のない奇声をあげて、ウェイトレスに知らせる。ラテン系らしい彼女は、聞き覚えのあるポップソングを小声で歌いながら皿をとりあげ、客が座っているカウンター席にすっと差し出す。山積みのフレンチフライの上に、手に持って食べるには大き過ぎるバーガー、巨大なピクルス、レタスとトマトがのっかっている。そこまで美味しいとも思わなくても、このバーガーには病み付きになってしまう何かがある。

このダイナーで、3作目にあたる自作の短編『AT NIGHT』の一場面を撮影させてもらった。白髪まじりの男性は確かギリシャ人で、撮影当時(2004年)は息子もダイナーで働いていた。さんざん交渉した上、渋々承知してもらったのだが、いざ現場になると真面目に動くスタッフに感心したのか、比較的友好的に接してくれた。わずか一晩の撮影だったので自分を憶えているはずもない。完食は無理かと思ったバーガープレートを全部平らげたあと、元気そうなオーナーの男に礼をして、店を出た。

今日はニューヨークで唯一生き残っている名画座フィルムフォーラムに1964年のイタリア映画『ああ結婚』を観に行った。ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの名コンビ出演作品で、あとに『ひまわり』を撮るイタリアの巨匠ヴィットリオ・デ・シーカの中期の作品。あるカップルの20年以上に渡る関係がドタバタ喜劇風に展開していくのだが、後半は観察眼豊かで感動的なドラマになっている。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラスト、20年間も愛人としてしか受け入れられなかった元娼婦の女が、秘かに育てた隠し子が3人いると告白する。すっかり動揺する男。自分勝手な彼は、自分の子供が誰かにしか執着しない。そんな様子をみて、事実は教えないと断言する女。やっと女を妻として迎え入れることにした男に、隠し子達が結婚初夜『おやすみ、パパ』と声をかける。ハッとする男。背後で涙が止まらなくなる女。戦後イタリア映画の傑作『自転車泥棒』を産んだデ・シーカのヒューマニストな視点は、64年でも健在。マエストロ、まいりました。すっかり感動。『ゴッドファーザー』の名作曲家ニーノ・ロータのスコアも美しい。