さてネットフリックスを始めとして、TV/ネット界が、映画製作者だけでなく、視聴者にも多大な影響を与え始めていることを書いてきた。そして遂にこの秋から、ネットフリックスが本格的に映画業界に殴り込みをかけてくる。
前回紹介した『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』のケアリー・フクナガ監督の最新作『ビースト・オブ・ノー・ネーション』は、西アフリカの架空の国で展開する武装集団に巻き込まれる少年の話。約6億円で製作されたこの作品は、完成後、ネットフリックスが全世界権を約12億円で買収したことで話題になった。(ネットフリックスは<オリジナル制作作品>と宣伝しているが、正確には完成後に買収している) そして今年8月にヴェニス国際映画祭でプレミア上映されて話題になって僅か2ヶ月後、10月16日から日米同時ネット配信が始まるのである。アメリカでは限定で劇場公開も決まっているようだが、日本では、プレミア規定に関して厳しいはずの東京国際映画祭で、配信開始後の10月末に上映される(ちなみにチケットは2000円)ようだ。このように話題作が三大映画祭でのプレミア上映直後に日本でもネットで観れるようになれば、<劇場公開/配給>のあり方がますます問われるようになるのは間違いない。
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話かわって、このシリーズ最後に紹介したい筆者がはまってしまったTVシリーズは、『羊たちの沈黙』ファンは必見のTVシリーズ『ハンニバル』だ。メジャーTV局(米NBC)が制作したとは思えないぐらいグロテスクな事件やおぞましい登場人物が次々に現れて、カニバリズム(食人)まで描かれているにも関わらず、低俗な見世物主義に染まらずに、映画シリーズにも劣らない心理サスペンスとして迫力満点。ドクター・ハンニバルとFBI捜査官の、次第に立場が逆転していく心理的な駆け引きを中心に、不気味な映像美で視聴者を魅惑するユニークなTVシリーズだ。全エピソードの美術も素晴らしいのだが、毎回<食事>の場面にも異様なほど凝りまくって撮影されているのにも注目。シーズンが進むに連れて、おぞましさと異様な映像美が増大していくので、シーズン3でNBCが打ち切りを発表したのにも納得できる。
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アメリカでは、魅力的なシリーズが近年になってぞくぞく登場している。その背後には、一極化していくハリウッドに対して台頭してきたTV/ネット界の影響があると同時に、才能あるフィルムメーカーが集結していることもあげられる。その結果として視聴者までに影響が及んでいることを考えれば、日本の映画業界にも影響がでてくるはず。保守的で萎縮化している日本映画業界も、いまこそリスクを踏まえた上で新しい可能性を追求するべきではないだろうか。