ロッテルダム映画祭日記3

ネットワーキングは朝食からはじまる。そもそも今回参加させてもらったロッテルダム・ラボは、映画祭の企画マーケットであるシネマートの連動イベント。企画を持ったプロデューサーが、配給、セールスエージェント、資金探しのために参加するのがシネマート。興味のある会社やプロデューサーにアポを入れて、朝から夕方まで3日間ぶっつづけでミーティングをこなす究極のネットワーキングだ。人気のある企画は1日15件ほど予約が入るという。そんな慌ただしい1日のスタートが、シネマート会場で催される朝食だ。ラボ参加のプロデューサー達も、シネマートと映画祭ゲストのみ招待される朝食、昼食、カクテル、パーティに参加して、ネットワーキングの場を拡げることができる。知名度とは反対に、比較的こじんまりとした映画祭なので、去年参加したベルリン映画祭よりもはるかに人に会いやすい。いざ勇んで会場に行くと、コーヒーをゲットするにも長い列ができている。企画の話しをしている人達に挟まれながら、つくづくプロデューサーとは大変な仕事だと感じる。ふと見ると、長い列に飽きれた様子の友人ルカが目に入る。一緒に順番を待つようにジェスチャーすると笑顔で近寄って来る。「なんだいこの列は?朝食でさえも競争かい?」冗談にならない冗談である。

ラボ参加プロデューサーは、1日中ワークショップやレクチャーに参加する。最初のレクチャーは、海外で<ピッチ>と呼ばれるプレゼン方法について。喋り方はもちろん、言葉使いから、動作や仕草まで、色々な注意事項を説明される。ただ基本はあくまで自分であること、そして企画に対する自分自身の情熱が相手に伝わるようにすることに重点が置かれる。指摘されれば納得だが、<just><only><small><maybe>などの言葉は、ピッチには禁句。何人かが参加者の前で練習させられる。緊張してほとんど何を言っているのが解らない人もいれば、あまりに積極的すぎてあつ苦しい人もいる。どちらかというと、女性の方が比較的冷静だ。キューバ、コスタリカ、ブラジル、メキシコなどラテン諸国から参加しているプロデューサーはなぜか女性が圧倒的に多い。

昼食を挟んでさらにレクチャーが続く。海外との共同企画を推進するためにEU諸国ではプロデューサー組合のようなグループが幾つかある。それぞれがロッテルダム・ラボのような育成プログラムを主催しており、お互いに協力しあいながら情報提供や資金サポートを行っている。行政が率先して文化貢献のために確固たるシステムを確立している。しかもヨーロッパだけに限らず、アジアやラテン圏まで幅広い範囲に渡ってサポートが実施されている。こういった文化貢献のスピリットが日本の行政にはことごとく欠けていることを感じさせられた。

夕方にはカクテルアワーがあり、さらに夜はパーティ。ネットワーキングは永遠と続いていくはずなのだが、パーティをさぼって、昨日出逢ったフィンランドのプロデューサー・マイクと一緒に、フィンランド映画界きっての異端児として知られるピーター・ヴォン・バックの作品を観に行くことにする。監督本人が来場しており、マイクに紹介してもらう。60歳ぐらいの知的な印象を与える紳士は、固い握手をしながら「作品を見に来てくれたんだね」と聞いてくる。「そうです」と応えると「来なくていいよ 最悪な作品だから」と笑顔でひと言。この自虐的ユーモアのセンスが映画にもそのまま投影されているものの、上映後のティーチインからは、彼がどれだけ映画を愛しているかがひしひしと伝わってくるのが、微妙に心地よかった。<続く>

ベルリン映画祭は熊、ロッテルダム映画祭は虎がイメージマスコット

LINEで送る

This entry was posted in hyoe by 山本 兵衛. Bookmark the permalink.

About 山本 兵衛

米マサチューセッツ州の高校を卒業後、ニューヨーク大学Tisch School of the Artsにて映画製作を学ぶ。卒業作品『A Glance Apart』がニューヨークエキスポ短編映画祭にて最優秀フィクション賞を受賞。またフランスの国営チャンネル Arte、日本ではシネフィルイマジカにて放映。アメリカの配給会社 Kino Internationalにて4年間マネージャーを務めた後、ハリウッド大作『シャンハイ』などに現場通訳として参加しながら、監督/プロデューサー/脚本家として活動。自身の短編作品が、ロッテルダム国際映画祭やトライベッカ映画祭などで上映されている。ドキュメンタリー『サムライと愚か者〜オリンパス事件の全貌』で長編デビュー。青山学院大学にて非常勤講師を務める。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>